出張日記


2004年


11月25日

昨夜は朝方5時まで事務所で打合せ。さすがにきつい。
しかも打合せの前までJIAでC.J Lim氏とDriendl氏の講演会の司会。おもったよりも多くの人が集まってくれた。しかも欧米系の若者がどこからともなく現れてくるのは不思議な感じ。皆熱心にメモをとっている。今回のこの講演会を見た人はラッキーだった。参加した人達も皆口々にエキサイトしていた。それにしても日本の建築関係者はいわゆる海外のスーパースターが来ると1,000人ホールでも満席状態なのに本当に中身が良くともあまり知らない人の講演会には集まらないようだ。やはり日本人の本性なのかブランドに弱い。自分で嗅覚を働かして本当にいいものを探すのを日本人は苦手とするようだ。
ワインパーティーも大いに盛り上がった。今ロンドンでオランダで何が起きているかなどの話に話題が集中した。その後事務所で打合せが続いたがワインが入っていたので辛かった。
5時半に就寝。9時45分に起床。ひげそり、荷物のパッキングを15分で済まし、10時にスタッフが迎えに来た車に乗って大学に。海外出張用の荷物はいつもパッキングがしてあって中身を若干変えるだけ。基本的に手荷物しか持たない。日本が冬の季節で東南アジアに行くのが結構大変。ジャケット、ズボンは兼用できる秋物にセーターを加えるだけ。
11時に大学に到着。今日は「外国人講師によるワークショップ」の最終プレゼンテーションの日。外国からの講師は二名で一人はロンドン大学バートレット校のC.J Lim氏。彼はもともとマレーシア・ポーの出身。AAスクール卒業後ロンドンに滞在。現在はバートレットでピーター・クック、クリスティーヌ・ホールの元でユニット・マスターを務めると同時に建築研究所所長。Directorの肩書だ。大学内に自分の研究所を持ち、コンピューターを駆使した新しいデザインを展開し、ヨーロッパでは多くの注目を集め、ヨーロッパ各国のスクールで教えている。今年のベニス・ビエンナーレではUKから出展している。多くの本も出している。
彼とはクアラルンプールのシンポジウムで知り合った。ARCACIA(アジア建築会議)の基調講演を共にやり、意気投合した。2000年に僕がミュンヘンで個展を行う時、展示サンプルをミュンヘンに持ち込む途中、彼とロンドンで会う約束をしたのだが、丁度バートレットの課題のプレゼンテーションの日で、とにかく直接大学に来いという話になり、空港から荷物を持ったままバートレットへ行きクリティック、講評会に参加する羽目になった。ピーター・クックやクリスティーヌもいてプレゼンテーションとクリティックを楽しんだ。ミュンヘンでの個展の話をしたら、突然ピーター・クックがサンプルを見せろという。皆の前で掛け軸のように作ったCGをプリントしたロールスクリーンを見せた所、「バートレットでもやれ。」という話になり、おかげでミュンヘンの後バートレットで個展と講演会をやることができた。何とその時の司会はピーター・クックがやってくれたのだった。それ以来彼(C.J)とはロンドンに行くたびに会っているし、2000年に北九州の早稲田の理工学研究所で日本と韓国の学生の合同ワークショップの時にも彼に来てもらった。
もう一人の講師はウィーンの建築家Georg Driendl氏。1956年インスブルック生まれ。日本ではこの2、3年GA House76、78、82で立て続けに紹介され、78、82では表紙にもなっている。
仏のlユarchitecture dユaujourdユ hui誌にも紹介され、日経アーキテクチュア、(2004年の11月15日号)にも紹介されている。今年の7月にダマスカスに行く途中ウィーンに立ち寄った時、彼の案内で彼の設計した住宅を4棟、オフィスを1棟見せてもらったが、とにかくすごいの一語につきる。彼が用いるほとんどの材料、部品が特注品なのだ。中にはドアなど自分で作ってしまうものもある程だ。
今回のワークショップはこの二人が11月18日から大学のすぐ近くのホテルに泊まり込み、缶詰状態で学生を指導してくれた。
C.J Lim のテーマは身の回りのものから2つ以上のものを持ってきて、そのものが持つ形、動き、状態などを観察し、それらをデジカメでスキャニングし、建築化しようとするもの。
C.Jによると僕達の発想力は固定観念に基き、最初のイメージの段階でもう頭の中に形態が予想されてしまっている。しかしこの様々な動きや形態のスキャニングの組合せから生み出される形は途方もなく何が生まれてくるか予想ができないところが面白い。
例えば紙風船を持って来たチームは紙風船が風を起こすという動きや紙風船が様々に形を変えているという特性を建築化していくと風の動きと形が面白いインターアクションを起こしていくといった具合。そこからイメージされていく建築は本当にすごい。他のチームはクリスマスに用いられるイルミネーションをスキャニングしていく。光具合や複雑に形を変える様をデジカメで撮り続け、その中から一瞬のショットを選び出す。そしてそこから建築をイメージしていく。全部で7チームがCJの指導の元、デザインを作り上げたが全てが面白かった。
一方Driendl氏のテーマは東京都内に建つ住宅。それも20Fから40F、50Fといった都心の敷地。ヨーロッパでは考えられないこれらの敷地がDriendl氏を刺激したらしく、8チームが取り組んだ。敷地の一つは東孝光さんの塔状住居。青山の6坪の敷地に何ができるか話題となった。
他の敷地は遠藤政樹氏の渋谷のナチュラルエリップス。もう一つは岩岡竜夫氏の八丁堀のローハウス。
いずれも狭い敷地にデザインをしていくのだが、結果は予想外に面白かった。
プレゼンテーションは合計15チームが行い11時から午後4時半までかかって行われた。
日本からのクリティックは曽我部昌史氏、藤本壮介氏の二人で彼らのコメントも刺激的で面白かった。
これらの全ての作品はC.J Lim氏とDriendl氏の作品の紹介と共にCD-ROMにまとめられるので希望者は古市の千葉工大のe-mail addressに申し込みのこと。郵送料とCD-ROMの作成代、合計\1,000でお分けします。これは必見だと思う。
午後6時からフェアウェル・パーティーの予定だが、僕は午後7時発の成田発の飛行機でマレーシアのペナン島に向かうため5時に大学を去る。今夜はシンガポールのAirport Transit Hotel(本当に空港内にあるホテルでパスポートコントロールを出なくとも良いホテル)に泊まり、翌日の朝8時の飛行機でペナン島に行き、9時半からマレーシアコンペのプレゼンテーションが始まる。一緒にやっている山本理顕さんは今夜中にペナンに入っているはずである。OMA、MORPHOSIS、Hani-Rachid、Michael Sorkins、Seraji等々はどのような案を作っているのか興味津々。審査委員長はピーター・クック。他にメルボルン大学のLeon Van Shaik、Architectural Recordの編集長Clifford Pearson氏、それにKen Yeang氏、明日が楽しみである。


11月26日

昨夜はAirport Transit Hotelに宿泊。それにしても便利。僕のPenang行きの飛行機は8:05発であるが目が覚めたのは7時半、飛び起きてひげをそり、荷物をまとめ、階下に下りるとそこは出発ロビー。7時45分にはゲートに到着。9時半にペナン空港着まっすぐShangrila Hotelに向かう。もう各チームのpresentationが始まっているはずだ。山本さんたちは既に昨夜到着していて部屋に行き、打合せをする。僕達のプレゼンテーションは午後の4時から。今回のcompeはPenang島の競馬場Penang Turf Clubの跡地にNew Townを作ろうというもの。Penang Turf Clubの周辺は高級住宅地と化した為、競馬場をメインランドに移し、そこを開発しようとする。CompetitorはOMA、MORPHOSIS、Asymptote、Michael Sorkins,、Nazrin Seraji、Gruntuch Ernst Architekten、それに山本理顕さんと僕のTeam。
午後4時、presentationの為、部屋に入ると審査員が5人座っており、全チームの模型及びパネルがその周囲に展示してあった。
審査委員長はPeter Cook。審査委員はAustraliaのLeon Van Shaik、アーキテクチュラル・レコード誌編集長の長Clifford Pearson氏、他にQSやReal Estateの関係者。
発表は30分、その後質問。いくつかの質問に答えてプレゼンテーション終了。その後ホテルの外に出る。一軒なかなか良さそうなTaylorを見つける。全て注文服。作りも良い。スリーピースで高級イタリアンウールのものが3万円〜5万円。朝行けばそのまま採寸をしてくれ、その日の夜にはFitting(仮縫い)、翌日の夜にはできているという速さ。この手のものはアジアには多い。それもほとんどが高級ホテルのすぐ前に並んでいる。バンコクのオリエンタル・ホテルの前も有名だし、インドのボンベイのタージマハールホテル前も有名である。作りも悪くないのでこれはお勧め。7時半に山本さんと待ち合せ。今夜のDinner Party会場へと向う。会場は通称Blue House。ここには10年程前に来たことがある。建築家のLawrence Lohがかつての中国人の豪商の屋敷を買い、Renewalしたもの。
19世紀の後半、マラッカ一帯で成功した中国の商人が建てたものでChinese Style。とは言っても完全ではなく折衷様式。建築は木造ではあるが手摺や階段などがスチール製、それもアーツ・アンド・クラフツのもので実際にScotlandから輸入されたという。贅を尽くした建物で一次放置されていたがLawrence Lohが買い取り、Renovationを施し現在はHotelとして利用されている。
Loungeでビールを飲んでいるとLawrence Lohが現れ、僕達に説明してくれた。それによると平面形は東南、西、北の軸にのっている。軸上にエントランスホール、中庭、後部のホール、そしてその後は抜けていて気が通り抜けるよう計画されている。風水である。しかも中庭は階段が三段程下りた構成となっている。玄関にも階段があり、これらを総合すると龍の背のように上ったり下ったりという構成で風水的に非常に良いとのこと。ちなみにここを訪れた風水のMasterは異口同音にこの建築の風水学を絶賛しているとのことである。Penangに行く機会があったら泊まると良い。高級Hotelである。今回の審査員もここに宿泊している。全部で14室しかないとのこと。宿泊したならLawrence Loh氏に頼めば案内し、それぞれの装飾やDetailにかんし事細かに説明してくれるはずである。 今夜のDinner PartyはOrganizerのEquine Groupの借り切りで前庭にテントを張った豪華な屋外Dinner Partyである。
中国の伝統音楽の生演奏が行われ、なかなかの雰囲気だった。
Peter Cook氏と話した。来年の1月下旬水戸でArchigram展をやるため日本に来るとのこと。3年前Bartlet校で僕が個展、及びlectureをやった時、司会をしてくれたのがPeter Cook氏だった。Lecture後、Dinnerに招いてくれ、そのとき日本に行きたいと盛んに言っていたのを思い出す。それが実現して本当にうれしそうだった。
ビュッフェスタイルであるがマレー料理がずらりと並んだ様は壮観である。疲れもあり、やや早めに切り上げる。


11月27日

起床後ホテルのレストランでお粥をたっぷり食べる。
9時からEquine主催のsymposiumがここから離れたEquatorid Hotelで行われるのだ。K.L.Wongが8時半にHotelに迎えに来てくれる。9時に会場入り。一人25分のプレゼンテーション。途中でPenang のChief Ministerが来て盛大なceremony。
competitor全員がlectureを行った後、Leon Van Shaik、最後はPeter Cookのlecture。これがpowerfulで面白かった。多くのスライドを交えて身振り手振りのlectureは情熱的なentertainerともいえるほど。
「Modernism is over最近盛んに曲線を用いたり、自由に作るのが流行っているけれども僕はもう30年以上も前からやっている。」とのPeterの発言。「その筆頭がZaha Hadid。でもやたら曲線を使えば良いというものではない。例えばHani-Rachid。彼なんかは退屈だな。」と本人の目の前で言うのには驚いた。



Symposiumが終わった後、Lunch会場でたまたまHani Rachidの隣に座ったが彼は怒り狂っていたが当然のこと。 もう片一方にはOMAのPartnerのOle Scheerenが座った。千葉工大でやっているWorkshopの話をしたところHani-RachidもOle Scheerenも乗り気で千葉工大に来て一週間指導してくれるとのこと。来年の2月下旬には実現しそうだ。Lunchが終わった後、K.L.Wong氏の案内でPenang観光。北部のリゾート地まで行き、ShangliraのLasa Sayan Hotelに行く。LasaとはFeeling。Sayanとは愛(といっても恋的な意味ではなく)、そしてLasa Sayanは愛情ということになる。Hotelのビーチは多くの欧米人で混んでいる。
このPenangは12月から2月にかけ英国人を中心としてヨーロッパ、アメリカの人が長期滞在するとのこと。中流階級の人はHotelに滞在し、お金持ちになると高級別荘を所有し、暗く陰鬱なヨーロッパの冬を避け、Penangで冬を過ごし、春になるとヨーロッパに戻るという訳である。うらやましい限りである。
僕も東京を発つ前は一ヶ月程鼻づまりで悩んでいたが、Penangに着いてからすっかり治ってしまった。ビーチに着くと山本さん達は野外バーでビールを楽しみ、僕は水着に着替え海で泳いだ。水温が高くまるでぬるい温泉のようだった。
小一時間ほど海に浸り、「チョー気持ちの良い」状態に至った。その後ホッカーと呼ばれる屋台の並ぶ飲食コートに行き、数多くのDishを堪能する。マレー料理は独特で中華料理とインド料理がミックスしたものと言われる。 そのまま空港へ行き、シンガポールへ。シンガポール空港内のラウンジでシャワーを浴びる。肌についていた海水を洗い落とす。それにしてもシンガポール空港の施設は世界一だ。


11月28日

深夜1時10分発のSQで8時半に関西空港に着く。関空で朝食をとった後、特急「はるか」で京都へ。駅前のエル・イン京都ホテルにチェック・イン。そのまま眠り込んでしまう。昨日からオーストリアの建築家、Georg Driendl氏が子息のFranz君と京都に入っている。昨日は旧建築少年の馬場君、今日は河井君が車で案内してくれているはずだ。夕方の5時に目が覚め、河井君に電話をして地下鉄今出川駅で午後6時45分に待ち合わせ、河井君の事務所へ行き、東京の事務所からコンペの図面を送ってもらい最終チェックを行った後、夕食会へ。
旧建築少年の河井君、馬場君、中村潔君とドリエンデル父子、僕の6人で夕食会。
町屋を改装したなかなか雰囲気の良い店。その後2次会でTimes、先斗町を案内した後、祇園のバー「ITユS GION DFUX」へ。このバーは小さな川沿いにあり、春は桜、秋は紅葉が見られ、なかなかのものである。結局ホテルに戻ったのは午前一時半。


11月29日

9時半起床後、河井君の運転でDriendl父子と桂離宮、妙心寺の退蔵院の庭園、上賀茂神社を見学。京都駅で夕食をとった後、新幹線のホームでDriendl氏と別れの挨拶、僕は明日の現場チェックのため高松へ向かう。

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