出張日記

2005年


12月6日

成田発ウィーン着 今回のミッションは二つある。1つは赤澤先生とダマスカスでキャラバンサライ・プロジェクトをシリアの文化大臣にプレゼンテーションすること、及び工事をどのように進めていくかの打合せ。途中ウィーン工科大学で縄文博物館の構造の打合せを行なうこと。 16時にウィーン空港到着後、16時半にスタッフの高橋、研究室の学生渡部及び縄文博物館の共同設計者の鈴木さんがバルセロナから到着するのを空港ロビーで待つ。高橋達は僕が2002年にバルセロナで行なった個展の模型、図面等をバルセロナの倉庫に保管してあったものをウィーンまで運んでくる。やがて到着。さすがに膨大な量。茶室セット(一坪のもので今日庵をモデルにしたアクリル材とアルミのフレームで現代風に作ったもの)は東京に持ち帰るため空港の荷物一時預かり所に預ける。残りはマイクロバスに積み込みウィーン市内へ。ホテルチェックイン後8時にウィーン工科大学のWinter教授、網野助教授が来る。たまたま部屋で縄文博物館の模型を解いていたので二人に見てもらう。短時間で夕食に出るつもりだったがそこで構造のアイディアを巡って議論が白熱する。模型を前にWinter教授がスケッチを書いたりしながら約一時間半。フォト 面白いアイディアが多く出された。縄文の構造を現代的に表現していこうとする試みは思いの他面白くなりそうである。結局9時半頃まで打合せになり、Winter教授は今夜の11時発の寝台車に乗るために予定していたDinnerをキャンセル。その後網野助教授を交えホライン設計のfilm museumの隣のレストランで夕食。特に豚のすね肉を焼いたブロフは絶品。こんがりと焼いた皮の部分は美味で飽きない。 ウィーン版とんかつのシュニッツェルもうまい。


12月7日

朝9時半から13時までウィーン工科大学で昨日の打合せの続きを行なう。三つのボリュームを連続した1つの曲面屋根で架けた方が中央の柱が強調されるのではないかと思われ、その方向で議論をする。中央の木造掘立て柱の横つなぎ架構を見せない方が垂直な柱が強調される。サンドイッチをほおばりながら打合せを続ける。その後構造解析を行なってくれる事務所を表敬訪問。打合せ後そこから空港へ行き、明日日本へ帰る高橋達の茶室等の荷物をチェックイン。随分と時間がかかる。そこから今夜のオペラを見るために市内に向かうがこれがとんでもない渋滞。オーストリアでは明日12月8日は明日、祝日のせいだとのこと。何とか入り込む。開始後10分過ぎていたのだが会員であることを証明しとりあえず第一幕は立席のところに割り込ませてもらう。 今日のプログラムはワーグナーのローエングリン。舞台装置も衣裳も現代版 (いわゆるコストを抑えるため)。ワーグナーはいつでも長丁場でしんどいのだが第三幕は良かった。終わったのは夜の11時近く。 その後街中でレストランを探すがほとんどが11時閉店なのには参った。結局普通のカフェに入ったのだがここのオーナーの手作りカレーが抜群に美味しかった。その後ホテルに戻り、スペインで購入してきたワインと生ハムを皆で楽しむ。話が盛り上がり終わったのは午前2時半。


12月8日

午前中ガイド役を買ってサン・ステファン教会、モーツァルトの住んだフィガロハウス、H・ホラインのレッティろうそく店や、宮殿前のアドルフ・ロースの設計によるロースハウスを見学。モーツァルトは来年生誕250年を迎えるためにフィガロハウスは改装中だった。外観は概ねできていたがあまりに修復をやりすぎたためやや白けてしまう。かつてのボロボロの館の方がモーツアルトの痕跡が残っているようで感慨深いものがあった。建設のお知らせ看板によれば12月6日で工事は完成しているはずなのだが内部はまだ工事中。彼の誕生日1月27日にオープンとの事。以前ここに来た時はほとんど来館者がいなかったのだが、来年は相当多くの人が訪れるに違いない。 サン・ステファン教会は午前中ミサとの事だが、横の入口から祭司達が入るのについて行くと内部にすんなりと入れてしまった。 途中H・ホラインのハース・ハウスの横のチョコレート店アルトマン・キューネに立ち寄る。日本ではこのチョコレートはあまり良く知られていないがウィーンっ子の間では最も人気がある。パッケージがすごく洒落ている。黒、赤、青、黄色を基調にしたパッケージが数種類ある。このパッケージはウィーン工房がデザインしたもので100年近くの歴史を持つ。最も有名なものは丸いパッケージで中は重箱のようになっていてそれぞれの段の中には放射状にチョコレート粒がびっしりと詰められている。この詰め方がまた美しいのだ。フォト この他にハードカバーの本のようになっているのもある。表紙をまくると中には色々なチョコレートがびっしりと詰められている。他には裁縫箱のように引き出しが数段重ねられているのもある。丁度クリスマスの時期なので1ユーロ払うと様々なデザインのリボンをつけてくれる。この店はお勧めである。 高橋と鈴木さんを送り、ホテルに戻る。昨夜が睡眠不足だったので入浴、洗濯後眠る。 夕方5時に目が覚め、6時に建築家のDriendl氏の事務所を訪問。最新のプロジェクトを見せてもらう。今年全部で5つものコンペに勝ったとの事で、事務所は随分と活気があった。 その後彼の奥さんも交え、日本料理の天満屋へ行き、一緒に食事を楽しむ。


12月9日

起床後Driendlさんが空港まで送ってくれる。10時半ウィーン発。午後3時ダマスカス空港着。 今回文化大臣にプレゼンテーションをするためにアサド・パシャ(キャラバンサライ)プロジェクトの模型を大量に持ち込んだため、赤澤先生がミニバスを手配し空港まで迎えに来てくれていた。 ウィーン空港では随分とセキュリティチェックが厳しかったがダマスカス空港の方は案外簡単に通してくれた。そのままホテルへ直行。 赤澤先生は風邪で調子が悪いので早く眠ることを勧め、日本から持ってきた風邪薬をあげ、学生の渡部とホテルの近くを散歩。そして旧ダマスカス駅の横のスタンドでシャウルマとバナナミルクを注文。ここのシャウルマは圧倒的にうまいのだ。丸くて薄いパンに羊のスライスやピクルズ・ソース、香辛料を加え、ロールにしたものがシャウルマ。フォト これはうまくて安い。一本50円程度。その後ホテルへ戻り、日本の味噌汁と日本茶を飲む。 いつも携帯用湯沸しを持ち歩き、湯を沸かし、それでおしぼりや赤飯等色々なものが手軽にできてしまう。味も良い。これはもう10年近く愛用している。不思議に故障もないし、世界中どこでも使えるのが重宝である。フォト その後極めつけはプライベートシネマ。これは日本で録画したDVDをパソコンで見る。よく見るのはNHKのシルクロードやTBSの世界遺産を取り貯めたものが多いが、最近はBSでやっている「フーテンの寅さんシリーズ」を持ち歩く。今年はウズベキスタンのサマルカンド、アゼルバイジャンのバクー、韓国のソウル、南スペイン、北欧などで鑑賞したがさすがに寅さんシリーズは日本が強く、画面が現れテーマソングが流れると世界中どこにいようとそこの空間は日本になってしまう。ボリュームを目いっぱい大きくし、味噌汁と日本茶を飲みながら楽しみは格別。もう夜が待ち遠しくてたまらない。最近はフーテンの寅さんは旅の道連れになっている。BSでは今後27本程放映するので27回違った異国で楽しめると思うと嬉しい。 10時に映画は終了。そのまま就寝。


12月10日

10時半位までベッドの中でうとうとする。12時にアサド・パシャへ行く。シリアのプロジェクトの担当のアビール女史、考古総局の博物館担当ディレクター、同建設部長、赤澤先生と小生、学生の渡部で中庭に模型を全て並べて打合せ開始。 まずプロジェクトの説明を行う。平面計画を確認し、必要な部屋に関しては現場に立会いながら打合せを進める。一番の問題は中央のオープニングを冬カバーするための電動式天窓のデザイン。アビールに説明してもらうが要領を得ない。結局基本設計にも満たないスケッチしかなく、明日までに詳細図を用意してもらうことで合意。 午後3時半に打合せを終える。その後遅いランチ。シリア料理はいつもながらに美味しい。 その後ダウンタウンを歩く。ホテル近くの文具店が並ぶ通りは面白かった。種類も豊富で品質の良いブランド物が沢山置いてある。いくつか買い込む。ホテルに戻り、赤澤先生の著書「ネアンデルタール」を読む。読み応えがあって引き込まれる。


12月11日

9時考古総局へ。そこから車で文化省へ。文化大臣に持ってきた模型や図面を説明する。大臣は熱心に話を聞く。通りいっぺんのプレゼではないのが分かった。シリア文化省側のこのプロジェクトに対する意気込みが伝わってきた。一時間程プレゼンテーションを行なう。 その後ホテルに戻り、休憩。午後3時に日本大使館へ。村瀬参事に面会。この大使館の建物は昨年の今頃オープンしたとの事。設計はイタリアの建築家。館内を案内してもらう。そこからアサド・パシャへ。 午後5時から打合せなのだがまだ1時間近くもあるので周囲を散歩。ピスタッチオをしこたま買い込む。ピスタッチオはここシリアが原産地なのだ。面白かったのはこの通りには様々な工房が面していることだ。木工屋、鉄工屋、様々な職人芸を守っているのだ。これは見応えがあった。 午後5時からアビールの部屋で天窓の打合せ。図面を持ってくるが詳細図としては不十分。それでも納まり上のポイントや仕上、色、安全性、工事の進め方などを説明する。それでもやや不安があるので明日ダマスカス郊外の工場見学に行く手配をアビールにしてもらう。 その後レストラン、エリッサへ。ここは三度目。前回7月にも赤澤先生が学生全員を招待してくれた。やはり一味違う。冬期間中、中庭上部にはテントが架けられていて内部は暖かい。楽しんだ後ホテルに戻り談笑。


12月12日

10時考古総局へ。そこからアビールのアシスタントのスーザンに郊外の工場へ連れて行ってもらう。屋上で製作をしていたが、全て出来上がっていた。心配した程品質は悪くない。職人達も熱心で僕が現場でスケッチを描いて説明すると皆熱心に聞いていた。問題はスライドする天窓が天気の良い日は屋根に引き込むのだが、先端が見えてしまうこと。全体を短くすれば引き込んだ状態で完全に隠れるのだが、職人達は嫌がっているようだ。全体をチェックし、主要なポイントだけ職人達に指示を出して引き揚げる。 帰途考古総局の博物館部長にその点を説明し、変更の要望を出す。そのまま空港へ。半年前に来た時に比べると空港は大きく改装されたようだ。スターアライアンスのゴールドメンバー用のビジネスラウンジも作られていた。モダンなスベニールショップも増えていた。 予定通り午後3時50分発。機内で出張日記を書く。午後6時半ウィーン空港着。気温マイナス5℃。ダマスカスに比べるとさすがに寒い。そのままホテルに直行。預けておいた荷物を受け取り部屋へ。機内食を食べてきたので夕食を取らずに風呂に入る。気持ちが良い。CNN Newsをベッドに入って見てそのまま眠りにつく。


12月13日

起床、朝食後、10時オープンに合わせて再度サン・ステファン広場のチョコレート店アルトマン・キューネへ買い物に。クリスマス前なので店内は老婦人であふれていた。 みやげ物も含めて10ヶ程買い込む。 ホテルに戻り、予約しておいたタクシーに乗り、一路空港へ。 13時30分発のウィーン発オーストリア航空東京行きに乗る。


12月14日

朝8時過ぎ成田空港着。

出張日記リストへ inserted by FC2 system