出張日記

2006年




4月23日


 自宅を朝6時30分に出る。車で一路大学へ。
研究室では徹夜で図面、模型を仕上げている。
大学に7時過ぎに到着。事務所スタッフも全員泊り込み。
作業はまだ続いている。模型に誤りあり。至急修理。
図面のプリントが間に合わない。結局大学を出たのは午前8時前。
皆に見送られる。10時5分、ANAで瀋陽へ向け出発。瀋陽着は遅れて13時。
空港に張鉄と通訳の女性が迎えに来ていた。彼女はバンクーバーに3年ほど住んでいたとのことで,英語がきちんと話せる。
持ち込んだ模型が大き過ぎたので空港税関でもめる。張鉄が説明して無事通過。
まっすぐ張鉄の事務所へ。持ってきた図面・模型を広げ打合せを開始。
今回のプロジェクトはハウジングと100mのオフィスタワー。ハウジングからスタート。
施主側から出されたコメントを中心に議論を進めていく。
 日照条件が強く求められる。棟をいくつかのボリュームに切り分け、ボリュームを少しずつずらしていく提案はどうしても日陰ができてしまうという理由で拒否される。同時に眺望もさえぎられてしまうことも嫌われた理由。
駐車場は総戸数の6割は欲しいとの要求も出される。10年前に瀋陽で計画を始めた頃はほとんど駐車場の要求はなく専ら駐輪場だったが車が普及し始めるとだんだん日本並に台数が求められるようになる。
又、キッチンは直接外気に接しなければならない。オープンキッチンを提案するも中華料理は強火を用い,しかも煙がもうもうと出るという理由で不可。縦に貫通する煙道が必要。
水回りのパイプスペースは中国語で管通井と書く。分かりやすい。高層棟群の最上部のメゾネットの屋根の形を全て違うデザインにしようという提案は受け入れられる。
次にオフィスタワーのプレゼンテーション。二案用意していく。もう地下工事は始まっていてファサードをどうデザインするかというプロジェクト。かなり法規が複雑に絡んでいて外形・輪かくは変えられないとのこと。
打合せは休憩無しで続いた。
 午後7時頃に本日の打合せは終了。市内のレストランで歓迎の夕食会。レストランはしゃぶしゃぶ屋さん。餃子のしゃぶしゃぶが美味しい。
このしゃぶしゃぶはもともとモンゴル料理とのこと。チンギス・ハーン時代,移動する兵士達が鉄のヘルメットに湯を沸かして羊肉を食べたのだ。このレストランでは羊ばかりでなく牛,豚,鶏肉,魚,野菜,そして餃子も食べられる。夜9時半に終了。そのままシエラトン・ホテルへ。
風呂に入って早めにベッドに入り,NHKのBSを見る。昨夜余り眠っていないので11時には寝入ってしまう。


4月24日


9時前に起床。久々にぐっすりと眠る。朝食はお粥。これが中国に来た時の楽しみ。
施主と張鉄が9時半にホテルに迎えに来る。そのままオフィスへ。
施主側から数名及び実施設計を行う東北建築設計研究院から3名参加。計画の説明を行う。
議論の中心となったのは断熱法。瀋陽は冬、マイナス20℃にもなるので断熱に関しては徹底している。
又,バルコニーも拒否される。理由は三つある。
一つは丁度この季節モンゴルのゴビ砂漠から飛来してくる黄砂がたまってしまうのである。
もう一つは美観上の問題。バルコニーがあると中国人は色々な物を置いたり,洗濯物を干したりでかなり醜悪になってしまうとのこと。
次に議論になったのはこちらから提案したプレキャスト・コンクリート方式。
戸数が6,000戸もあるのでプレキャストはコストを考えても,工期を考えてもはるかに有利なのだが中国では経験がないとの理由で拒否される。
途中ランチで老辺(ラオビン)餃子店へ。次から次へと異なった種類の餃子が出される。瀋陽は餃子の発祥地なのでさすがにうまい。
しかし昼間から白酒(パイチュー)での乾杯には参った。
午後も打合せを続け夕方五時半に終了。夕食まで時間があるので市内の天福茶店へ。
鉄観音の新茶を買い込む。これは東京の事務所で色々なお客さんに出した所、評判の良いものだったので大量に買い込む。
又プラスチックの茶入れ容器も友人への贈り物として二ヶ程購入。二段になっていて上部の容器に茶葉を入れ、お湯を注ぐ。しばらくして横についている小さなボタンを押してやるとお茶が下の容器に落ちる。上の容器がふたの役目を果たすので保温効果もある。鉄観音茶に合う中国菓子も買う。
店を出ると奏氏がハウジングのクライアントと外で待っていてくれた。そのままレストランへ。高級なレストランだ。流石に若いスタッフは同席せず。様々な仕事の関係者が集まってくる。例によって幹杯(カンペー)幹杯。
そのレストランの個室は片側が円卓もう片側がカラオケ用のラウンジになっている。10数種の料理をたん能した後はカラオケ。とにかく中国人はカラオケ好き。日本の歌をせがまれて歌う。北国の春、昴、四季の歌などは中国でも大ヒットした歌なので誰でも知っている。
僕は日本語で、彼らは中国語といった具合。そのほかはテレサ・テン。僕は中国語の民歌も歌う。この歌は中国人なら誰でも知っているもので新疆ウイグルの伝統的な民歌。メロディが美しい。6時からはじめた宴会も12時まで続くと流石に疲れる。
食事中隣の席の女性と最近僕がはまっている中国映画の話で盛り上がる。特に張芸謀(チャン・イーモー)監督や陣凱歌(チン・カイコー)監督の作品。
チャン・イーモーの「初恋のきた道」や「活きる」「あの子を探して」「紅いコーリャン」やチン・カイコーの「黄色い大地」や「北京ヴァイオリン」などなど。最近のハリウッド的な映画「英雄」などは不評。
宴会終了後ホテルに戻りそのままぐっすりと眠る。


4月25日


8時半起床。お粥の朝食。9時に張鉄がホテルに迎えに来る。昨日の打ち合わせでオフィス等の仕上げに関して面白いコメントが出された。
瀋陽の建物は4〜5層の下屋に上屋が乗っているようなデザインが多い。勿論、機能的に下層は商業施設、上層にオフィスもしくは集合住宅といった風に分かれているのがそのまま形となるのだがもう一つの理由が奮っている。
下層には大理石などを使い、上層は塗装にしているのがほとんどで、その理由は“5〜6階以上になると地上の人の目からは仕上げ材が確認できないから”がその理由なのである。いかにも中国的な合理主義である。今日はその実例を案内してくれるというのだ。
街中を見渡すとなる程多い。確かに上部の仕上げ材は確認できない。塗装といってもリシンのような吹き付け材なのでテクスチュアもあって仕上げとしてはまあまあ使える。それにどう目地を絡ませるかがデザインのポイント。数色組み合わせているのもある。この見学は面白かった。
その後空港へ行く途中、工事中の建物に立ち寄る。もともとショールーム建築として計画されたものを五つ星のホテルに改修しようという計画である。外観はガラス貼でほぼ出来上がっている。中央に巨大な吹き抜けがあり、内部は躯体のまま。
その上部に鉄骨で三層分増築しそこを客室に、下層を宴会場、カラオケゾーン(個室の数が半端ではないのだ)、スポーツクラブが入る。図面を広げクライアントと躯体の中で打ち合わせをする。
終了後、瀋陽桃泉空港へ。チェックイン後ラウンジへ。午後1時半、成田へ向けて離陸。機内で映画「さゆり」の続きを見る。
成田から瀋陽間でも見たのだが一時間分程残してしまったので続きを見たのだ。スピルバーグ監督のハリウッド作品で芸者の物語。そんなに芸者の解釈も誤っていない。チャン・ツィーやコン・リーなど中国の大物女優も出演しているのだがやはり中国人が日本の芸者を演じるのは無理がある。
それに比べて芸者置屋のおかみ役の桃井かおりが良かった。なかなか見せる。
午後6時着。エアポートライナーで津田沼へ。そこで学生たちに中国での打合せの結果を説明する。夜10時まで打ち合わせをした後、車で事務所へ戻る。


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