出張日記

2007年



8月24日

AMTRAKで9時にグランド・セントラル駅を出発。10時20分にニューキャナン着。タクシーでフィリップジョンソンのグラスハウスへ。直前だったので通常の方法では予約が取れなかったが、SPONSORSHIPというツアーがあって一人500ドルを払えば見れるガイド付きツアーでワイン、ランチも付いているので豪華だ。それに写真も撮り放題である。

起伏のある広大な敷地にグラスハウスの自邸、ゲストハウス、マウンドに埋もれた美術館とガラスの大屋根の美術館、グラスハウスを下った池に立つパビリオンそれにジョンソンの書斎、最近にになって作られた小美術館をめぐる。当然のことながらミースのガラスハウスとの比較になる。ミースは、建築全体を浮かしているのに対してジョンソンは床レベルが外部庭園に近づけられている。

 

そのため、大地の上で生活しているような感覚になる。柱も対照的でミース白色で構造を外部にむき出しにしているのに対してジョンソンは、黒色で構造は内部にあり、ガラスがくるむようになっている。

 

しかし、最も大きな違いは厨房だろう。ミースがコアの一部に取り付けているのに対してジョンソンは、リビングのコーナーにオープンなものとしてキッチンを置き、あたかも生活の中心だと言わんばかりに作られている。

 

ミースのものは、キッチンがコアに面しているため、外部の美しい景色に背を向けていることになりあまり快適ではなさそうだ。しかし、今回の一番大きな発見は、このグラスハウスを中心とした全体計画はポツダム郊外のシンケルのグリーニケ宮殿とほとんど同じ考え方で作られていることだった。

起伏の上にたつパビリオン、宮殿などの置き方は、ジョンソンはグリーニケから大きな影響を受けているに違いない。ミースはシンケルから大きな影響を受けているが、
ベルリンのシンケルの端正なクラッシックなものよりは、むしろポツダムを中心とした所謂ピクチャレスクの方が影響は大きいのではあるまいか。

グリーニケ宮殿
グラスハウス配置図

ピクチャレスクとは絵画的というと誤解を生むかもしれない。幾何学的な理論的構成というよりは、自由な配置、シンメトリーを崩した自由なプランニングから生まれる動きのある建築、空間、ランドスケープで言えば、自然の起伏に忠実な配置ということが出来るだろう。
ミースのバルセロナパビリオンの壁を自由に配したプランニングなどは、シンケルのピクチャレスクからの影響と見ることも出来る。
ジョンソン邸の広大な敷地を歩きまわりながらずっと、グリーニケ宮殿と比較をしていたが、かなり楽しめた。

グリーニケ宮殿の建築群、特に屋外のティーハウスやパビリオンがシンケルにしてはやや過剰とも思える位に装飾的で建築が強い主張をしているのに比べてこのジョンソン邸は建築全体がそれ程自然に対立せずに自然の中に埋め込まれている印象を持った。
自邸から下の池に下る所に川が流れている。そこは一旦自然に見えるのだが、よくよく見てみると周囲の自然とは明らかに大きく異なっている。かなり作り込まれているのだ。これはどう見ても日本庭園からの写しだ。
これはあちこちに見られる。一方でヨーロッパの流れを主張するようにパビリオンのデザインが作り込まれている。しかし、ここに入って見ると頭がぶつかってしまう程小さく、恐らく1/2スケール位のもに違いない。しかし、池の上に作られていることは日本の寝殿造りのようでもあるし、スケールが1/2位のものと言えば、我々日本人は平等院を思い出してしまう。そういう意味では日本で見たものが大きく影響しているのかも知れない。

 
ジョンソン邸の他に正面にあるゲストハウス、マウンドに埋められた美術館。

全体がガラス屋根に覆われた美術館。自邸から下った池の中のパビリオン等々。ジョンソンがここで様々なタイプの建築を試しているのが面白い。

 

 

晩年のジョンソンは意識的に自らをモダニズムから離れた位置に置き、小さなプロジェクト(Pet Project)をplayとしてアートとしてデザインを楽しんでいたそうだ。
これは、その典型的な例かもしれない。

ツアーが終わった後、敷地内にあるテラスでワインとランチを楽しんだ。500ドルはやや高いが充分価値はあった。

駅まで送ってもらい、駅前のジョンソン邸のためのオフィスで本を数冊買い込んだ後、ボストンへ。イエール大学のカーン設計のブリティッシュ・アートギャラリーへ。この建物で最も好きなのは大きな吹き抜けのあるエントランスロビー。コンクリート打ち放しの構造体と木パネルの対比が美しい。特に木パネルのディテールにはいつも感心させられる。

 

しその後、イエール大学のアート・ギャラリー。以前1983年にここに来た時は、ブリティッシュ・アートギャラリーの方に感動したが、今回は、アート・ギャラリーの方が感じる部分が多かった。こちらの方が古いのだが、RCによる三角形を組み合わせたトラス構造といい、アプローチ部、外壁といい、じっくりと観察し楽しめた。サーリネンの寄宿舎の外部、イエール大学構内を歩き回った後、ニューへブン駅へ戻り、7時過ぎニューヨークへ戻る。タクシーでMOMAタワーに住むY氏宅を訪問。氏はニューヨークで美術商を営んでいる。部屋の内部には、所狭しと美術品が置かれていて楽しい。そこから近くの上海料理へ行き夕食



8月25日

朝食後、ペンステーションに行き、明日のペンシルヴァニア行きのAMTRAK チケットを購入に。コンピューターが故障したということで長い列。購入後、SOHOへ。家族のショッピング。ついでにOMAのプラダ、スティーブンホールの美術館を見学。その後、SeagramやCBSなどニューヨーク古典モダニズムを見た後、5番街の高島屋へ。フィラデルフィアで訪問するFisherさんとEsherikさんへのお土産として高級な漆塗りのお盆を2つほど買う。ホテルへ戻り、夜はミュージカル「オペラ座の怪人」へ。



8月26日

午前8時ペン・ステーション発。
10時ペンシルヴァニア駅着。ホテルにチェックイン。
その後、フィラデルフィア市内散策。たまたま映画「建築家」で見たルイカーンの事務所を発見。
午後1時にフランクロイドライト設計のシナゴーグへ。
しかし、約束したにもかかわらず牧師は来ず。電話をするとカギを持っている人が今日は、来ないとのこと。明日の午前に見学できるとのことを確認して外観を撮影する。
そこからエシュリック邸へ。

あらかじめTod Williamsにアポイントを取っておいてもらったので午後3時半に邸を訪れると婦人が丁重に迎えてくれた。夫婦とも今朝フロリダから戻ったばかりの所との事でご主人はお休み。それでも婦人は親切にご主人の部屋以外は全て快く見せてくれた。第1印象は写真で見たよりも小ぢんまりとしている。カーンは根本的には古典主義者である。立面には3つのシンメトリーなフレームがうまくバランスされて全体として非シンメトリーを作る。
この手法はC.R.マッキントッシュが使う手法でもある。


 横の立面は完全にシンメトリーである。しかし、裏側は基本的にシンメトリーを保つ。

 

外観を見て強く印象付けられるのは白い壁と木の対比。平面を見るとなおさらそれは、はっきりする。カーンの初期のスケッチを見ると良く分かるがカーンは最初からシンプルな箱にまとめようとしていたことが分かる。壁と柱を巧みに使い分けながら。最初のスケッチはシンメトリーで、しかも視線が表から裏へ通っていたことが分かる。実施案では視界は通さずに階段と玄関正面に壁を設けて視線のドアがある。そのため左手のドアを開けて入るとそこは、ホワイエになっている。

小さな空間だが、玄関ホールとしては十分である。


そこからダイニング、キッチン、そして右手へ折れ曲がるとリビングだ。低い天井のホワイエから二層吹き抜けのリビングに出る。空間の演出は巧い。リビングは正面側の木部は棚になっている。上部は、めいっぱいそして中央部は縦長の小さいガラス窓になっている。


リビングの裏手の木の部分は中央を縦に大きなガラス窓が作られている。全部開けているのではなく中央の開口の幅の1/2程西側が木部になっていて外の木々を面して見せている。


ダイニング、キッチンも見せてもらうが、やや改造しているのではないかと思われた。この住宅の見所は内部への光の入れ方に尽きる。それがそのまま外観に現れてシンプルに見えながら相当に練られた平面、空間に学ぶところが大きかった。二層に面したところは階段から上がったブリッジになっている。ブリッジに上がると正面入口側にガラス窓が抜けている。


外観と内部空間に全く矛盾がない。反対側の壁は二層の壁であるが中央上部にガラス窓が作られているので室内は十分に明るい。

フィラデルフィア市内へ戻ろうと車で走ったら、すぐヴェンチュリーの母の家が右手に見えたので見学。進入路は袋小路のようになっていて正面が母の家である。
内部は電気がついているが、隣に住む人が丁度ガーデニングをしていたので聞いたところ外出中とのこと。
「その人は外部だけなら見てもいいですよ」と親切に言ってくれたので言葉に甘えて住宅の周囲を見て歩く。
正面ファサードは左右に伸び比較的大きく見えるが横に回ると意外と奥行きがない。そういえば、このような書割り的な構成はヴェンチュリーが最も得意とするところだ。
全体の印象は意外と小さく思われた。

 

 

その後ホテルに戻り休憩した後、中華街へ。たまたま偶然入ったレストランがえらく美味しかった。観光客は全く見当たらず、チャイニーズと地元のアメリカ人。外観はみすぼらしかったが、たまたま横から垣間見た厨房は活気があったので入ったのだが正解。近くのスーパーで飲み物を買い込み、ホテルに戻る。

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