出張日記

2008年


9月11日

ホテルで朝食後、ジーザへ。ジーザはノルマン時代、王のため作られた夏の離宮。もともとアラビア語でAL-AZIZが本来の名前だったらしい。現在はイスラム博物館になっていて地中海沿岸のアラビアの文物が収められている。宮殿といっても外観は比較的単純な立方体になっている。全体が壁的で開口は少ない。外観はアラブ的で確かにシリア辺りで見た建物の印象に似ている。実は、アラブ建築というものは存在しないと思っている。アラビア半島に住んでいたのは、あくまでもベッドウィンが中心で彼らは遊牧民。テント生活である。リヤドに宮殿が作られたのもそれ程古い昔の事ではなくて建築も日干しレンガを積んだ城壁と円筒形が組合されたもの。カタールやクウェート、ドバイにも住んだ事があるが基本的には日干しレンガに開口が開けられたものでイエメンのサナアやシバームに行くと漆喰が窓の回りに塗られていて、それが特徴になっている程度のもの。シリアのアラブ建築、例えばアレッポのバロン・ホテルやダマスカスの旧中央駅などにしてもヨーロッパ建築との折衷。

考えてみればここも、元々ローマ帝国だったのだから当然。さてジーザの話に戻るとボリュームは単純な直方体、三層構成。構造は当然日干しレンガであったであろう。平面図を見ると良く分かるのだが、とにかく壁が厚い。厚いというよりは全体が日干しレンガの塊でその中をえぐって空間を作ったと言った方が正しいかも知れない。

 

ポジの塊にネガの空間。あるいは、その逆。猛暑の夏でも十分に断熱効果はあったに違いなく、室内に入ればかなり涼しかったに違いない。階高は高い。一階の前面は通路になっている。通路と言っても十分な幅と天井高を持ち細長い居間、巨大な縁側とでも言った方が分かりやすいかも知れぬ。通路は建物全体を貫通している。この通路は二層分の天井高を持ち二層目の窓がこの通路に顔を出している。この通路に沿って中央に大きな接見の間。恐らくこの空間の奥から壁を伝って水が流れ、そしてこの空間の中央を横切って通路まで流れる仕組みになっていた。当時でも湿度はそれ程高くなかったであろうからこの水の気化熱によって冷やされた空気は、十分に天然のエアコンの役目を果たした事であろう。

接見の間は、二層吹抜けになっている。隅部は入隅ではなく出隅のコーナーが丁度、柱が二本ダイアゴナルに連続したように作られている。

 

壁面四面ともイワンになっている。イワンの内側はイスファハンなどのペルシャ建築に見られるように天井部分には複雑な彫刻が施されている。天井はクロスヴォールトである。両側のイワンの上部中央には小さな開口があるので、この開口は、熱せられた室内の空気がここから上昇気流となり外部に排出するための換気窓になっていたに違いない。

接見の間の両側には小さな空間が控えている。正面ファサードには通路に面して中央と左右にそれぞれ開口が作られている。開口はそれ程シャープではないがポインテッド・アーチになっている。アーチの周囲は縁取りされ壁面よりやや引込められて陰影によるアーチをその外側に作り出す。この陰影を利用した凹凸こそ、地中海沿岸のアラブの国々の建築に見られるものだ。3階は中央が王の間になっている。この両側は寝室などになっていたのかもしれない。3階にも1階同様の通路は1階と同じ位置に作られボリュームを貫通している。1階の接見の間に比べるとイワンもなく質素である。三階の居間の両側には縦横に狭い通路が作られている。再び外へ出て外観を見る。宮殿にしてはそれ程豪華な感じは与えない。ジーザを後にしタクシーでノルマン王宮へ。ルネッサンス式の三層構成の中庭に面した礼拝堂へ。この礼拝堂は驚きである。三相バシリカ式であるが、身廊下の天井は明らかにアラベスクと幾何学をモチーフとしたイスラム天井で身廊の後壁にはキリストのイコン。キリスト教のイコンとイスラム教のアラベスクが同居する奇妙な空間。


身廊両側のアーチ壁面上にも、側廊天井の片流れ屋根を支える垂木とその隙間の空間にもキリストのイコンと様々なエンブレムがびっしりと描かれている。これだけびっしりと装飾で施されると空間が見えにくくなってしまう。

 

 

そこから歩いてパレルモのドゥーモ、マッシモ劇場などを見学した後、パレルモを後にして一路シャッカへ車で南下する。緩やかな丘の間を走っていく。オリーブ、ぶどうの畑が延々と広がる。途中、焼畑農業の景色を見る。

 

シャッカはアラブ人によって作られた港町。海からの斜面上にびっしりと住宅が建っている。その手前の市役所の中庭に入る。風が良く流れている。海岸に入口があるのでそこから入ってきた風が中庭から上部へ吹き抜けていくのだ。陣内秀信さんに教えてもらった住宅の中庭を見る。周囲に階段が作られていてアーチも階段のレベルに従って上昇していくのでアーチの形が変形しているのがとても面白い。全体に斜面上に出来た街なので階段と中庭が作る空間がここの見所。更にシャッカから一路ラグーサへ。もうすっかり暗くなった午後7時過ぎ、ホテルに到着。オーナーと交渉しワイン込みの値段を交渉し安くさせる。料理はシーフード。海老、ムール貝、白身魚、マグロの煮込み、サラダ等。


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