出張日記

2008年


9
月15日

朝早めに起床して、アルベロ・ベロの街へ。


遅くなってしまうと観光客が溢れ、土産物屋が開き街空間が台無しになってしまうからだ。しかも街を俯瞰するには朝早い陽射しの方が美しい。こんなにも有名な観光都市だとプロの建築家としてはやや引いてしまう。何かキッチュ的なものへの恐怖が足を鈍くする。しかし、これは逆偏見とでも言うべきものである。朝日に映えるアルベロ・ベロの街はやはり美しい。無数の円錐屋根の住宅トゥルリがきのこのように立ち並び作り出す造景はどこでも見れるものではない。しかもトゥルリの上部が朝陽で光っている。手前の大通りから集落へ入る。


道は、上りになっていて所々に階段がある。両側の住宅群の壁の立ち上がりが驚く程に小さい。つまり屋根の軒が地上から背の高い人は頭がぶつかってしまわないかと思われるくらい低い。しかし、自然発生的に作られる造形は時として、驚く程のデザインを生み出す。

 

写真をかなり撮ってしまう。思わずプロ意識が出てこの空間を集合住宅(建売でも良い)に応用できないものかと頭の中で思いをめぐらしてみる。トゥルリは方形でも良い。それなりに面白いプロジェクトが作れるのではないか。このアルベロ・ベロの集落は大きく分けると二つの地域から成る。最も有名なものは、リオネ・モンティと呼ばれる所でほとんどの、反対側のアイカ・ピッコラはあまり観光客が行かないらしく、土産物屋もなく、都市・建築の空間がじっくりと観察できて面白い

 

その中でもレベル差を利用した通りに面してあちこちに作られた小さな広場が良かった。段差を利用したベンチが作られている。リオネ・モンティではあまり見えないベンチが面白い。ホテルに戻ると朝食をとっていると友人のG君がホテルに来る。

彼の案内でレッチェへ。レッチェは南イタリアの中でもバロック建築の傑作を多く持つことで知られている。その中でも最も有名なのは、サンタ・クローチェ聖堂である。この建物は1353年に工事が始まり、途中工事が停止し1695年に完成している。これらの建築群は柔らかく加工しやすいレッチェ石(石灰石)から出来ている。そのためファサードは驚くべき密度の彫刻装飾に覆われている。柔らかい石のため彫刻の一部はぼろぼろに欠けている。教会の左側に庁舎建築が連続している。

 

形式はシチリアのヴァン・ディノート様式に似ている。しかし、ここでは一層目と二層目は連続していない。二階バルコニーが垂直線を遮るように強い水平線が横切る。二層目の中央にバラ窓があるのもユニーク。二階バルコニーを支える受けは怪獣をモチーフにしたものになっている。


入口前に階段が作られているが、その水平線が建築を際立たせる役目を果たしている。中央のバルコニー、バラ窓、構成力、プロポーション全てが素晴らしい。確かにこれは傑作である。そこからオストゥーニへ。オストゥーニ(Ostuni)は南イタリアを代表する街である。オストゥーニもチスティルニーノと同じように高密度の建築群細い露地とヴォールトのトンネル、白い壁から成る街。この地帯はプーリャ州と呼ばれる所である。旧市街は小高い丘の上に作られている。



 

周囲は防御のための壁である。頂上にドゥオモが建っている。トスカーナ地方の山岳都市のようでもあるし、南仏のサン・ポール・ヴァーンスのようでもある。中央のドゥオモを等高線上にレベルの異なる露地が何重にも囲んでいる。これらの等高線上の楕円状の道は頂上のから放射線状に下る道と直交して交わり、豊かな都市空間を作り出している。


地震が多いので建物と建物をつなぐバットレスがあちこちに見られるのがユニークである。

チスティルニーノと異なり、頂上へ上がる階段が地形に合わせ複雑に入り組むように作られている。

 

階段と露地が織り成す空間が見所。街の所々から周囲のオリーブ畑を見下ろすことが出来る。その向こうはアドリア海。対岸は6月に行ったドゥブロフニクあたりだ。


露地の両側に住宅の階段がはみ出しているのが面白い。頂上はドゥオモと広場になっている。

 

チスティルニーノにしてもこのオストゥーニにしては春・秋・冬はどのような生活が行われているのか興味がある。今は夏の暑さのためか外部空間での生活は行われていない。斜面に建築が作られているために建物の斜面側の部分は地中に埋まっている。地中は年間を通して変わらないので、丁度中国のヤオトンのように真夏でも室内に入ると涼しいに違いない。冬の方が案外、戸外生活が行いやすいのかもしれない。時間が十分あるのでカフェでしばらく休む。やはりこのような街を訪れるのは車に限る。イタリアの高速道路は素晴らしく良く出来ているし、何と言っても時間の無駄がない。カフェで休んだ後、イタリア半島の土踏まずの部分にあたるターラント湾に面するガーリポリ(Gallipolli)へ。ガーリポリは島である。島周囲は車が走る道路になっているが、そこから一歩入ると迷路のような街路が網の目のように作られている。

G君の案内で何とか街の中のホテルに着くことができた。ホテルの屋上に上ると周囲は海に囲まれているのが分かる。

陣内秀信さんのすすめで来たがほとんど日本では知られない所であるが、イタリア、ヨーロッパの人達にとっては有名な観光スポットなそうである。何と言ってもビーチがあるので泳ぎを楽しむことが出来る。島の周囲を主要道路が走っている。

 

この街はチスティルニーノやオストゥーニに比べると道路幅が広い。車が街中にも入れるのである。


街の中心には当然、ドゥオモとその前の広場があるが、このドゥオモの天井のデザインが面白い。中央のドームは複雑に交差したヴォールトから作られているが、それらの形をまるで強調するように石は浮き上がり、全体としてユニークな天井を作り出している。

 

街空間は特に目立ったものがある訳でないのだが、ヴァナキュラー建築は我々が想像もしないような造形を作り出してくれる。

 

街を歩いていたら結婚式を終えたカップルが教会から出てきた。今夜は満月らしくあまりにも月が美しいので多くの写真を撮る。

 




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